スケベが書けた!(クララが勃った!)
【冬と火曜日】
「たでーま」
最後に会ってから三カ月が過ぎた頃、ふらりと奴は現れた。
仕事の仕込みに行くと言ったきり、奴はただの一度もこの部屋に戻っていなかった。
なかなか帰って来ないとは思っていたが、俺は焦ることもなく気長に待っていた。
12月の東京は酷く寒く、奴が仕事をすると宣言していたためどこに出掛けることもなく、炬燵を引き込んでのんびりと過ごす。
実に快適な毎日を送っていた。
その証拠に、その時の俺は庶民臭い半纏を羽織って、カーペットに横たわってうたた寝をしているほど気が抜けていた。
「久しぶりだな、ルパン」
まだ取れない眠気のまま、俺は起き上がった。
奴は出て行った時には着ていなかった厚手のコートに身を包んでいた。
青いジャケットによく生えるグレーのロングコートで、それを脱いでウォールハンガーに襟首を引っかけた。
「ほんと久しぶり、三か月ぶりだなァ、あーあったけえ」
ルパンはジャケットも脱がずに炬燵に胡坐を掻いて座る。
男二人の足を延ばすことは不可能で、俺が膝を立てて引っ込めた。
「で、どうだ。首尾の方は」
「順調も順調、絶好調よ。だからこうして一回戻って来たんだ」
何か飲むかと俺は炬燵を出て、一人暮らし用の冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫は胸の高さほどしかなく、中には酒と、酒のつまみになるようなものしか入っていなかった。
「酒しかないんだが、いいか」
「いいけど、あんまり度数高くないのにしてくれる?」
言われて俺は缶ビールを手に取った。
二缶を持って炬燵に戻り、グラスも添えずにルパンの前に置いた。
ルパンは何も言わずプルタブを引き、ゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干した。
「そんなに喉が渇いてたのか?」
いきなり一気飲みとは奴らしくないように思えて、俺は買い出しに行こうかと続けた。
「もうカラッカラ。干上がっちまいそう」
「はは、この時期じゃ干し柿になるな」
再び立ち上がろうとした時、炬燵の下で足首を掴まれた。
じゃれるなよと声をかけたが、ルパンは離さなかった。
「行かなくていいよ。てか、外出禁止。一秒たりともダメ」
「は?」
ルパンの灰色の目は、俺をじっと見つめていた。
缶ビール1つで酔うような男でないことは確かなのに、目はどこか据わっている。
「実は仕事の途中だったんだけどさ。どーにも我慢できなくなっちまって」
着古したスウェットの下にルパンが指を滑らせ、脹脛を揉みだす。
まさかそれだけのために戻って来たのかと、耳の先が寒くもないのに熱くなるのを感じた。
「女でいいだろ。わざわざそんなことで戻って来るなよ」
「次元ちゃんさァ。ジャーキーが食べたいって時に果物出されたって満たされないでしょ」
人を干し肉扱いするなと脹脛にいた手を離させる。
離した次には、向かいから抱き着かれて小汚いカーペットに仰向けに転がった。
「ん、ン……」
そのままキスをされて、つい答えてしまった。
唇は少し冷えていたが、咥内は熱気に満ちていて気圧される。
三か月ぶりとはいえ、こんな半纏姿の男によくもこれだけ欲情できると頭の片隅で思う。
「ンン、っは、ルパン、わかったから……」
「シャワー行く?」
「お前が先に、入れ」
気が済めば仕事に戻るだろうと、俺は受け入れることにした。
そしてルパンを先に風呂に行かせて、半纏を脱ぐ。
色気のないスウェット姿で改めて部屋を見回したが、かなり酷い有様だった。
男の一人暮らしであっただけに部屋は散らかり放題で、六畳そこらしかないアパートにはマットレスに布団が敷いてあるだけで貧相だった。
俺もかろうじて髭は整えていたが、髪も荒れていた。
黒の羽毛布団は干していないせいで薄っぺらになっていたが、今更どうするわけにもいかずただ引き直すことしかできなかった。
俺は改めて、奴がここに来て萎えなかったことを不思議に思った。
俺ならば、絶対に萎えてその気は起きない。
「次元、早く入れよ」
片付けようにもどこから手を出すかと突っ立っていると、後ろから手首を掴まれた。
ルパンはシャツとスラックスだけを身につけた姿で、強引に俺の腕を引いた。
「ッ、おい、引っ張んな」
そしてそのまま風呂場に連れて行かれて、すぐさまドアを閉められる。
まるで準備ができるまで出て来るなと言いたげだった。
「猿かよ……」
聞いているかはわかならないが、罵倒をしてから服を脱いだ。
それからシャワーに入り、一通りの準備を済ませた。
三か月使っていなかった穴を解すのには苦労して、湯船に浸かりたくなる。
だが、今のルパンはもって十数分に思えて、そのまま風呂を出る。
着替えも何もないまま放り込まれたせいで、タオル一枚で居間に戻る羽目になってしまった。
すると、ルパンは炬燵に寝転んで思い切り寝ていた。
ここまで自分勝手だと、呆れるよか他にない。
洗濯の山から下着と替えのスウェットを引きずり出して身に着ける。
そしてルパンの肩を揺すぶり、寝るなら布団にしろと声を掛けた。
「んー……一緒に寝ようよ」
ルパンは眠そうに言い、俺の腕を引いた。
一人掛けの炬燵に二人で入るのは、相当狭い。
「ねー、じげんちゃん。あとで布団行くからさあ」
だがあまりにも奴がねだるので、最後には折れて隣に寝転んだ。
ルパンに後ろから抱き着かれるような体勢で、寝苦しいのと狭いのとで寝心地は最悪だった。
「ルパン、やっぱり布団にしようぜ」
ルパンは俺の言葉など聞かず、うなじに唇を押し当ててきた。
息が少し荒く、その風にぞわりと背筋に何かが這う。
「次元、今日は手加減できねえから。腹括ってくれる?」
おもむろな言葉と同じ速度でルパンの手が腿に這い、俺は直ぐに言葉が返せなかった。
腹を括れと言われても、括ったところで何が変わるのか。
それを問う前に、またキスをされる。
首を真横にされて、上からルパンが覆い被さるような体勢で苦しかったが、口づけが言葉を許してはくれない。
「ッ、ん、ンン……んッ、ルパン……ッ」
すぐにでも脱がしたいといった手つきで腿を揉まれる。
そして普段のように少し布の上で弄ぶこともせず、直に俺の雄に触れてきた。
「あ、早、い」
「うん、余裕ないから」
ルパンは平然と言い切って、俺の雄に先走りを出させる。
焦っているような手先で弄られるのは稀で、さすがの俺もその気になってしまう。
「後ろ、どれくらい解せた?」
「ッああ、ばか、まだ入らねぇ、って」
自力で解し切れるほどの時間はなかったために、ルパンの指はまだ二本しか入らなかった。
いきなり突っ込まれて痛いほどで、抜けとルパンの手首を腿の間に手を通して掴んだ。
「ローション持ってないのか?」
「ああ、持ってたわ」
忘れていたと言って、懐から小さなチューブボトルを出す。
出した粘液を俺の穴に擦りつけ、指を入れ直す。
それでもまだ狭く、ルパンの指の動きは性急だった。
「う、ぐ……」
挿入することにしかルパンの意識はもうないらしく、俺は自分で雄を慰める。
そしてすぐに、尻が出る分だけ寝間着を下ろして、ルパンは雄を当てがった。
「ッ、ひ、あうぅ……!」
解したとはいえ、縁がそこまで拓いていないのに押し込まれて痛みを感じた。
「ごめん、痛いよな」
言葉だけが優しく、雄は無遠慮に奥に進んできた。
横向きで挿入しやすい体勢ではあるが、圧迫感は否めかった。
待ってくれないことは言われずともわかり、腹で呼吸することを意識する。
今のルパンは俺でしか満たされないと感じれば、それくらいの優しさは、俺にも持てた。
「んッ、んゥッ、んぐ……」
ガタガタと炬燵の縁に腰を引っ掻けながら、ルパンが俺を揺さぶった。
奥には届かない、浅い律動だったのが幸いで、声が漏れないように唇をかみしめる。
「あーー、すげえいい匂いする。何の匂い?」
汗を掻き始めている俺の首筋に、ルパンが鼻を埋める。
「んぅ、あ、知らね……ッ」
「フェロモンかなぁ。これ以上興奮させられると困るんだけど」
「ば、か……一人で盛り上がってんじゃ、ねえ……!」
人の首に好きに吸いついて、舌の全体を使って舐めてくる男に悪態をつく。
「だってお前、すっげーやらしいからさ……」
ルパンの声が低く震えて、甘く噛んでくる。
スウェット姿の、髭面の男のどこがいやらしいというのか。
尋ねようとして、また唇を噛み締めた。
尋ねたところで、奴にどう評されてしまうのかが怖くなってしまった。
「はぁッ、次元、やべ、もう出そう」
揺さぶられる速度が急に変わって、激しくナカを擦られて俺まで絶頂が見えてきてしまう。
ゴムもつけずに突っ込んだ奴が、外に出してくれるとは思えない。
ナカで出されるのは何度されても慣れるものではなく、俺は身構えた。
「は、次元、次元ッ……!」
「う……っ、んんッ……!!」
両腕で抱き寄せられ、ルパンがぶるりと全身で身震いをする。
その直後に腹のナカが生暖かくなるのを感じて、俺も身を屈めた。
ルパンは出し切った後も突っ込んだまま、俺の背骨の始まりをひたすらに吸い続ける。
「はぁ……あーー、いい……」
「か、加減しろ、よ……!」
俺の呼吸が落ち着いた頃、好き勝手に突っ込んで動いた男にそう言い、離れろと腰を後ろ手で突っぱねた。
精液で汚れたカーペットを使うのはかなり嫌だった。
「できないって、最初に言っただろ」
「あ、離せ、要らね……ッ」
ルパンは休む暇もなく、俺の雄に触れて扱いた。
絶頂が見え始めている俺には耐えがたいもので、手首を掴んで制そうとした。
しかしそれは扱くのを止めただけで、指先で亀頭を虐められる動きに変わって、快楽を止めてはくれない。
「次元も出していいよ。明日にはお前も連れてくから、いくら汚したってかまわないぜ」
「あっ、や、やめろ……!」
いくら元から汚い部屋とはいえ、そのままカーペットの上に出すのはためらう。
見悶えて我慢をすれば半勃ちになった雄を締めつけて、それが勃起を促していた。
「んは、汗だく。相当、我慢してる?」
俺の額の汗を舐めてルパンがそんなことを言った。
ふと、ルパンの汗の匂いが俺の鼻腔に届いた。
それに一気に性感をくすぐられて、ぐちゃぐちゃと音を立てている雄の先がびくりと震えた。
「ッ、あ、はッ…んン……!!」
びくんと一度身体が震えて、雄の中の管に精液がせり上がってきた。
それがたまらなく気持ちよく、抗うこともできずにボタボタとカーペットの上に零してしまう。
「あんまり出してなかったの? 濃いね」
わざとくちゃくちゃと音を立てるように握り込み、ルパンが俺に囁いた。
自慰はそれなりにしていたつもりだったが、思ったより出てしまったらしい。
「熱……熱い……炬燵、切ってくれ……」
絶頂後でも熱は引かず、それは暖房のせいだと俺は思いたかった。
もっと俺も欲しがっていると口にするには、まだ理性が形を保ち過ぎていた。
顔を手で隠してコンセントを指差すと、ルパンはいつのまにか捲った袖でコンセントを乱暴に引き抜いた。
「ここでもう一回してもいいけどさ、布団行こうよ。最初に奥当てられたらしんどいかと思ってこっちにしただけなんだよね」
「は……お気遣い、ありがとうよ」
わずか過ぎる気づかいだったが、俺は素直に礼を言った。
初っ端から奥を突かれれば、俺の体力はそれで尽きただろう。
長らく俺しか使っていなかった布団に寝転び、そこにルパンが布団を背中に被せてやってくる。
「この布団、すっごいお前の匂いするよ。興奮する」
「はぁ……もう、これ以上は勘弁してくれ」
背を曲げて俺に覆い被さり、軽くキスを紡ぐ。
明かりを消して欲しかったが、リモコンがどこにあるかわからなかった。
片付けておくんだったと、しても仕方のない後悔をしながら、目を閉じた。
ルパンも余計なことは言わず、スラックスを脱いだ。
俺も下は脱ぎ捨てて、ルパンのために脚を開いた。
「ッ、ん、ふぅ……ッ」
再度挿入されて、熱さも硬さも最初と変わっていない雄を身体のナカで感じた。
「もっと声、出せばいいのに」
「壁、そんな厚くねえだろ、ここ……」
筒抜けというほどではないが、あまり大声を出せば外に漏れてしまう。
前はここで暮らしていたのだから知っているだろうと言い返したが、ルパンは何を気にしているのかと不思議そうに俺を見る。
「もう戻らないんだし、いいじゃん」
「よくねえよ……最中にドアを叩かれんのは」
邪魔される方が嫌だと言ってみると、ルパンは喉の奥で笑った。
それから俺の腰を抱えて、無遠慮に揺さぶり始めた。
「あッ、こ、の……人の話、聞いてねえのかよ……ぁあ、ッ、うぁ……!」
肌を打つ乾いた音が立つほど強く打ちつけられ、思わず縋りついた。
奥まで一息に届いてしまう律動で、ナカが高ぶった雄に掻き回されて、布団の中に向かって喘ぎを出した。
あまり意味はないかも知れないが、東京の静寂とした冬の空気に出すには、あまりにも濡れ過ぎている声だった。
「邪魔されても気づかないくらいになっちまえばいいだろ、なあ?」
ルパンが薄く笑いながら俺に囁いた。
それもそうだと、俺は犯されるうちに理性が溶けてしまっていた。
縋りつくのをやめて、布団の上に身体を投げ打った。
「聞き分けいいね」
軽く言いながら、ルパンは布団を押しのけてから膝を折り、俺の腰を掴み直した。
それは腰を引くなという合図で、息を飲む。
「奥まで、いい?」
ルパンは屈めていた背を伸ばして自分の方へ俺を引寄せた。
上半身は色気のない服だというのに、ルパンはまったく気にしていなかった。
俺が嫌になって脱ごうとすると、ルパンはそれを止めた。
「まだそんな熱くなってねえだろ? 風邪引くぜ」
ルパンは俺よりかなり薄着の、前を開けたシャツ姿でそう言う。
自分は、俺より熱いと言いたいのだろうか。
そう思うと悔しくなった気がしたが、腕を袖から抜く前に身体を揺さぶられた。
「はぁ、あ、ルパン、ルパンっ……」
見下ろされて揺さぶられるのは少しばかり恥ずかしい。
ルパンは背を伸ばしたまま、奥に届くようにと俺の腰を強く掴んで離さなかった。
「やっぱりさ……お前のやらしさってこう、クセになるんだよなあ」
厚手の布の下に片手を這わせて、肉のない胸を掴む。
何が楽しいのか俺にはわからなかったが、絶え間なく与えられるナカの悦楽があれば好きにさせてしまった。
「なんつーのかな、俺のこと好きで好きでたまんないって顔、してくれるよな」
胸の次はまた先走りを垂らしている雄に触れて、可愛がるように撫でられる。
そんな顔をしているのだろうかと、俺も言われて考えてしまう。
好き好んで抱かれているのだから、きっとそうなのだろう。
だが、そんな顔を自分で見る勇気はなかった。
「くっちゃべってる余裕、あんのかよ……人に腹、括らせといて」
話題があるほどのセックスでは物足りないと、腰を揺らして見せる。
ルパンは薄く笑うような表情のままだったが、瞳孔が急に広くなったのがスローモーションのように見えた。
「次元ちゃん、かーわいいなァ……腹立ってきた」
「は? な、……うあッ、あっ!」
突然脚を束ねるように抱えられ、ルパンが前に倒れてきた。
奥を突き上げるように打ち据えられて、静かな部屋に激しく肉を叩く音が響く。
「あぁあッ、あぅ、あ、ンンッ、ルパン……ッ、奥、まだ、そんな……あぁッ…!」
一番深い場所で雄が手加減なくぶつけられて、目の前が白く光り出した。
上着を脱がなかったのを後悔するほど全身が熱くなり、掴めるものを探すように手が布団の上を惑う。
布団の端を掴んで注ぎ込まれた力を逃がそうとしたが、それで済むような快楽ではなかった。
「はは、上着、色が変わってんぜ」
ルパンは揶揄するように言ったが、俺の腿の裏もルパンの汗でしとどに濡れて滑っていた。
ナカも出された精液と、ルパンの先走りでぐちゃぐちゃだった。
見えていなくとも、持ち上げられた尻から粘液が腰の方に伝っていくので、いやでもわかった。
「ナカでイけよ」
ルパンは偉そうに言って、奥だけを執拗に突いた。
雄は放置されて、俺も慰められるほどの余裕はなかった。
「あっ、ル、あん、ア、あァッ……ッ、もう、イく……止まれ、るぱ……!」
ナカでイっている時に犯されるのは、恐ろしくなるほど深い悦楽を感じてしまう。
その前に止まって欲しいと言ったが、ルパンは最早聞こえていないらしく、一心不乱に腰を穿つだけだった。
顔を見れば、俺の腹を見ていたが、その視線は空中で止まっている。
「ひッ、ッーー、あぐッ、るぱ、るぱ、ァ……ッ!!」
じきに焙るような熱が体中の血管を膨張させて、快楽が汗を激しく追い出してしまうように、全身から汗がどっと溢れた。
下半身は疼くように痺れて、突き当てられる奥から骨を熔かしているのかと思うほどの快楽を感じる。
身体はしばらく張り詰めて、その間にもルパンは俺を犯し続けた。
「はぁッ、次元……ッ、はぁ……ッ」
締まる感触がたまらないのか、時折息を詰め、耐えがたいような溜め息を吐いた。
「ぅ……うぁ……あ……」
ナカを突かれて、俺から横隔膜が震えるだけの声が漏れるようになった頃、ルパンは俺の脚を開かせて強く正面から抱き締めた。
ルパンの陰毛が穴に触れるほど深く押しつけられ、ナカで雄が大きく跳ねるのを感じてはいたが、俺はろくな反応ができなかった。
「は、はッ、は…ッ」
奥でまたじわじわと熱が溜まっていくのを感じて、犬のように浅い息しか吐けなくなる。
しばらく、視界に何が写っているのかさえわからないほど陶酔してしまった。
ふと、自分が見ているのが天井だと気がついて、絶頂が俺への支配を解いたとわかる。
ルパンも大きく肩で息をしたまま、俺に被さって動かなかった。
「ルパン……」
「……なに?」
ルパンの声は小さかったが、明瞭だった。
「次は、三か月も我慢するな……死ぬ」
抱き方がめちゃくちゃだと、俺は抗議した。
「ん、ふふ……ははは、あはは……!」
ルパンは実に楽しげに笑い始め、俺の顔と向き合って軽くキスをした。
「そうだなァ、これはいつか殺しちゃうな。さっそく曜日決めとこーか?」
毎週にしろとは言っていないとは思いながら、火曜日がいいと返す。
「なんで火曜日?」
「燃えるゴミの日なんだよ、ここら辺の」
「なるほど、寝坊できるのは水曜日の朝ってことね」
ルパンはおかしそうに笑いながら俺から雄を引き抜いた。
「明日は何曜日だっけ?」
ルパンがさり気なく問う。
「水曜日だ」
俺はそう返しながら、離れないで欲しいと腕を首に回して抱き着いた。
本当は火曜日なのだが、嘘をついてみた。
明日にも捨てるというこの部屋が、ただ俺を求めて帰ってきたこの男が来た部屋が、ただ名残惜しくなったのだった。
end