へたに城をのっとろうとするからだ。
結城の捨て台詞が聞こえなくなってすぐだった。
真っ暗闇の世界、重く全身を圧迫している泥、塞がれた呼吸。
右手の先も死の世界に沈もうとしていた。
ルパン、ルパン助けてくれ。
口の中に泥が入り込むのも厭わず、たとえ声がでなかろうと、俺は叫んだ。
こんな終わりは嫌だ。
お前のために死ぬならともかく、こんな、自分のヘマでおっ死んじまうなんて。
たった一人、お前の知らないところで死んでしまうなんて。
これが俺の終わりだなんて、信じたくない。
中指と人差し指も死の窯へ引きずり込まれようとした時、誰かが泥の中に手を突っ込み、俺の手首を掴んだ。
その長く細い指に掴まれる感触は、身に覚えのあるものだった。
重い泥を搔き上げ、身体が持ち上げられるのが分かる。
俺はずっしりとした水と土を左手で掻き分け、手首を掴む腕にしがみついた。
「ゲホッ、がはッ、うぇ…」
頭が冷たい夜の空気に晒され、睫毛にまとわりつく泥を瞬きで跳ね除ける。
するといつもは不機嫌な猿顔が、わずかな微笑みとともに俺を見ていた。
「よくやったぜ、次元」
天井に突き刺した滑車つきの縄を握りながら、ルパンは俺の脇に腕を差して持ち起こした。
「う、る、ルパン」
泥がルパンの高級なスーツの布地を汚すのも厭わず、俺は赤子みたいにその身体にしがみついた。
「バカ、ひっつくなよ。今のお前は重てェし、汚ねェんだよ」
嫌そうに首を伸ばし、滑車を手繰り寄せる。
ルパンは泥沼から離れたフローリングへ足をつき、俺をその上に転がした。
泥を吸ったスーツの重さと、孤独な死の瀬戸際に強張った身体は、全く言うことをきかない。
転がされたまま、俺は泥の残りを吐き出し、呼吸だけを繰り返した。
「結城はもう戻ってこねェから、安心しナ」
ルパンは自分のジャケットについた泥を払い、ジタンを咥えて火をつけた。
そして俺のところへしゃがみ込み、泥を吸った髪を脇に避けた。
「しかし、きょうほどおめェを愛したことはないぜ」
唇の泥もぬぐい、ジタンを俺に咥えさせる。
「おまえが目印にあっちこっちタバコを捨てていったから、ここがわかったんだ」
犬を撫でるように俺の頭を撫で、宝は天守閣にあると地図を広げて嬉々として言った。
「…結城め!」
俺は殺されかけたことに対する殺意を今更思い出して、ジタンが唇からこぼれたのも気づかず追いかけようとした。
しかしそれはルパンに腕を掴まれたことでかなわなかった。
そして奴の車に小細工したさとウインクをするルパンの目に宥められ、怒りは燻るように収縮した。
そしてほどなくして、城の外から派手な爆発音が聞こえきた。
「…死んだかナ」
「多分な」
それを聞いて、俺はまたへたりと座り込んだ。
寒さとフラッシュバックした死への恐怖で、ガタガタと身体が震えだす。
「ルパン、寒ィ」
「見りャ分かるよ。とっととお宝を引き上げて…って、オイ」
その寒さに居ても立っても居られなくなって、俺は座り込んでいたルパンに縋り付いた。
ルパンは、今度は泥で汚れると怒りはしなかった。
「何震えてやがる。みっともねェな」
呆れながらも肩を掴み、しばらく抱きしめてくれた。
「…死んじまうかと思った」
「ダロウな」
「俺、お前の知らないところで死ぬのは、嫌だ」
言っても仕方のないこととわかりつつ、俺は訴える。
ルパンは新しいタバコに火をつけて、ゆっくり吐いた。
「なら俺からはぐれるんじャねっての」
今回は勝手にお前が先に行くからこうなったんだ、とルパンは俺をたしなめる。
それは、ルパンを喜ばせてやりたくて、俺が城を見つけてやろうと思って、結果なってしまったんだ。
それを途切れ途切れに伝えると、ルパンはため息をつく。
「あー、そうかイ。おまえのその忠誠心は空回りしちまって、意味がねェことばっかりでいけねェ」
黙って俺の後ろについてりゃいいものを、とスパスパとタバコを吸う。
「…相棒失格か?」
「あー、失格も失格だ。さっさと退場してもらいてェよ」
冷たくルパンは言い放ち、俺を突き放した。
そして宝を取ってくると言って、姿を消してしまった。
俺は部屋の隅で、震えながらその帰りを待った。
だが、しばらくしてもルパンの気配を感じない。
もしかしたら置いていかれたのかもしれない。
こんな使えない相棒だ、そんな扱いを受けても俺が文句を言えるはずもない。
朝になっても戻らなければ、一人で戻ろう。
しかしどこへ戻るというのか。
ルパンに捨てられたとわかりつつアジトに戻っても、追い返されるのが関の山だ。
暗黒街の殺しの仕事で食いつなぐしかないのだろうか。
そんなことをつらつらと考えていると、ガシャガシャという音を背後に感じた。
振り返ると、ルパンが麻袋に金の装飾を施した仏具を覗かせて立っていた。
「行くぞ」
咥えタバコで顎を外にさす。
ふと、どうしてルパンは俺を突き放さないのか、疑問に思った。
ルパンは頭の回転の遅い奴は嫌いだ。
自分の足を引っ張るやつも、俺みたいな無骨な男が甘えてこようとするのも。
その背中を追いかけながら、何故のアンサーを自分なりに見つけ出そうとした。
俺が帝国からの知り合いだからか? いや、そんな奴は俺だけじゃない。
手下の一人だからか? だが俺のように使えない手下を、無碍もなく見限ってきたのを知っている。
どう考えても、その理由は想像もつかなかった。
外に出ると、雨は上がっていた。
炎上する結城の車を尻目に、ルパンの後をついて歩く。
何キロか歩き続け、麓の別荘にたどり着く頃には沼の泥は落ち、代わりに山の泥と草花で俺たちは全身汚れていた。
ルパンの風呂の後、俺もシャワーを浴びて泥を落とした。
栗色に染めた髪の根元まで洗い、濡れ犬から人間に戻る。
ネクタイをつけたシャツとスラックス姿で風呂場を出ると、ルパンはリビングで宝をテーブルに広げ、満足そうに一つ一つを眺めていた。
「こいつはすげェぞ、次元。どれもこれも国宝級のお宝だ。闇ルートで捌きゃ、国とまでは言わずとも街が買えるぜ」
「そいつァ、良かったナ」
俺のしたこと全てが無駄だった訳じゃないと知り、笑みが零れる。
ルパンのこの顔を見ることが、俺の幸せだ。
しかし、俺が相棒でなければもっと頻繁に、確実にこの笑顔は現れるものかもしれない。
そう考えると、幸福な気持ちが霧散した。
俺は、ルパンという男のために生きてきた。
その俺がルパンのためにならないなら、生きている理由もない。
あの時死んでしまった方が、きっとルパンにとってはいいことだった。
「浮かねェ顔だな。安心しろよ、お前の取り分も分けてやるって」
「なァ……ルパン」
「んー?」
「俺、お前の相棒、辞める」
意思を口にした時、声が震えた。
それでもその言葉を取り消す気にはならず、俺は口を噤んだ。
「何だってんだよ、藪から棒に」
「だって、さっき言ったろ。相棒失格で、退場してもらいてェくらいだって」
「あ? あんなの本気な訳ないだろ」
眉をひそめ、ルパンは視線を宝に戻す。
俺は答えをはぐらかされた気がして、ソファーに座っていたルパンの隣に座る。
そしてわざと足を踏んだ。
「…じげェん」
明らかに苛立った声色で、俺に顔を向ける。
「ご主人様を踏むたァいい度胸してんじゃねぇか。タバコの件で仕置はしないつもりだったんだぜ」
「…ッ、ぐぅ」
胸ぐらを掴まれ、ソファーに押し倒される。
ネクタイを締め上げられて、俺は息が詰まった。
「だから、どうしてなんだ、よッ…!」
絞り出すように言うと、少し締め上げが緩まる。
それは俺に言葉の続きを許すサインだった。
「こんな、役立たず、どうして、許すんだよ…!?」
酸欠で頭がぼんやりしてきたが、ルパンが俺の顔を覗き込むのは分かった。
「なら俺も聞きてェな。なんだって俺にこだわって相棒なんかやる。今日ので懲りたろ、俺と一緒にいちゃ、命なんかいくらあっても足りねェんだぜ」
「ルパッ…」
「お前が先に答えな」
俺の返事はそれからだ、とネクタイを離す。
咳き込みながら、俺は尋ねられた理由を言葉にまとめる。
「お、俺は…お前が、好きだから…」
ただそれだけの理由だ。心底、ルパンという男に、その生き様に惚れている。
自分を貫き、欲望を叶える。誰しもがしたくともできないことを、クールに叶えてる。
憧れと、そのために尽くしたいという思いが、俺の全てだった。
「好きねェ……お前は俺のオンナにでもなりたいってワケ?」
「ち、違う」
そういう意味じゃない、とかぶりを振る。
「好き、つうのは、そのままの意味だ。お前がお宝や女が好きな…みたいに」
「俺様にしてみたら、そいつは求めて、手に入れて、満足するって意味だぜ」
ニヤリとルパンの口の端が弧を描く。
違う、そういうことでもない。
俺はあらぬ方向へ話が進んでいくのを止めようとした。
もしそんな風にルパンを見ていると思われたら、それこそ俺は見放される。
男にそんな気持ちを持たれたって、ルパンにとってみたら迷惑千万なのは、火を見るより明らかだ。
「なァに焦ってんだよ。お前さんが言い出したんだろ?」
右手が俺のネクタイをすくい上げ、くるくると指に巻いた。
それだけの手遊びが、今は俺の心臓を跳ね上がらせる。
落ちるまで首を絞められるかもしれない。
その恐怖が俺を襲った。
「ルパン、違う、本当にそういう意味じゃねェったら」
手を顔の前に合わせ、目を隠した。
「…なァ次元、さっき俺にお前は聞いたよな。どうして俺様が、お前を許すのか」
その手首をルパンは掴み、無理やりこじ開けた。
「俺様の心の中、無傷で見ようなんざ100年早ェよ」
せめて火傷でもする覚悟くらい持って、俺様に物を聞け。
ルパンは睨むような怖い表情で俺を見据えた。
その時俺はようやく、自分が尋ねたこと、それ自体の愚かしさに気づいた。
「る、ルパン…痛、いッ、ーッ!」
がぶりと肩に噛み付かれ、俺は悲鳴を上げた。
ギシギシと肉が軋んでいるのがわかる程力は強く、暴れても歯は食い込んだまま離れない。
鮫みたいに、こちらが腕を引けば肉を持っていかれる。
息も絶え絶えにその痛みを堪えると、ルパンはようやく口を離した。
口の端は俺の血で滲み、それを手の甲で拭い取る。
「お前も黙っていればいい物を、どうしてわざわざ聞いちまうんだ? そういう馬鹿は嫌いだぜ」
血の匂いに興奮したのか、ルパンは手をまた俺に伸ばした。
ボタンを引きちぎるようにシャツを剥ぎ取り、今度は胸に噛み付く。
痛いと喚いても、脚をばたつかせてもルパンは離してはくれなかった。
同じように血が滲むまで歯が刺さり、次は二の腕を噛まれた。
「も、聞かねェから、ルパン、許してくれ…!」
俺は涙が溢れる視界でそう懇願した。
俺が悪かった、もうお前の心中を尋ねるなんて過ぎた真似はしない。
痛みの中で、それを伝える。
二の腕を食い終わったルパンは、身体を起こして俺を見下ろした。
仕置が終わったのかと、俺は恐る恐るその目を見る。
だが黒い目は、炎をたたえているように熱かった。
「収まらねェ」
ひとりごちるように言い、ルパンは俺のバックルに手をかけた。
アレを食いちぎられる。
そう考えた俺は、半狂乱になった。
「嫌だ、嫌だッ」
ルパンの身体を押し退けようと叩き、蹴る。
後でどんな目に遇おうと、どうでもよかった。
殺されるより酷いことをされる、俺の危機感がそうさせた。
「どうしてだよ、俺はお前さんの疑問に答えてやろうとしてんだぜ」
ルパンはそう言い、俺の手を自身のネクタイで縛り上げ、片足をベルトで締め上げた。
違う、そんなのは俺が尋ねたことへの罰だ。
「大人しくしてりャ、優しくしてやるっての」
なだめるように言い、恐怖で興奮した俺の口を鼻ごと塞いだ。
それをされるとまた次第に酸欠になり、手足の力も、興奮した頭もぼやけた。
俺が大人しくなったのを見て、ルパンはようやく手を離した。
「そうだぜ次元、イイ子にしてな」
スラックスの前を解き、するりと下着の上を指先で撫でる。
「おまえのここはガキの頃見たきりだっけか」
風呂なんかに一緒に入ったよな。
優しく思い出話をするように言い、ゴムの部分に指を引っ掛ける。
そんなこともあっただろうか、と俺は霧のかかった頭で思い出す。
はるか昔、まだ帝国が健在していた頃。
俺はルパンの遊び相手として連れてこられ、かたやボディガードとして銃を叩き込まれた。
その頃から俺の命はルパンのもので、それを疑問に思うことはなかった。
帝国が崩れ、ルパンとともに外の闇へ放り出されてもそれは変わらなかった。
ルパンという男のためになりたい。
それだけのために、生きてきた。
だが外の世界では俺はどうにも間抜けで、ヘマをしてルパンに怒られっぱなしだった。
昔馴染みとは言え、そんな俺をどうしてルパンが捨てないのか。
それを疑問に思った途端、どうしてか問わずにはいられなかった。
「女、何人抱いた? おまえはお姉さま方にはモテるだろ」
するすると指が下着の中に入ってくる。
根元に触れた時、勝手に腰が揺れた。
「数える程しか、ねェ」
女は好きだが、お前のように追い求めたことはない。
女より、俺には追いかけなきゃいけない背中があるからだ。
「そうか、じゃあちっと酷かもな」
ずるりとルパンの手が侵入し、俺の雄を通り過ぎた。
そして尻の肉を掻き分けて、窄まったそこにひたりと触れた。
俺は雄を食いちぎられるかという恐怖を忘れ、驚きに頭を上げた。
「何、す」
「おい、野暮なこと聞くんじゃねェよ」
にやにやと笑い、そこを刺激してくる。
女好きだと思っていたルパンの思わぬ行動に、俺は戸惑い唇が震えた。
「女とはシたことあるからよ、心配しなくていいぜ」
ルパンはそう言って、俺の雄に触れてきた。
「う、ア…」
手のひらに握られ、何度か擦られるとそこは素直に反応した。
手慣れているルパンとは対照的に、俺は処女みたいにその刺激に震えるだけになる。
「そう、力抜いてな」
シュク、と先走りに手のひらが濡れ始め、俺の雄が下着の中で膨らみ始める。
ルパンにそれを知られている、そもそもそれを促されている。
その羞恥に顔が一瞬でのぼせ上がった。
「ヤメろ、ルパ、仕置でも、悪趣味だッ…!」
拘束された手足で暴れ、抵抗を見せる。
ルパンはやめるどころか、むしろより握力を強めて竿を扱いてきた。
「これはいつものお仕置きとは、違うぜ」
悪人のように笑って見せ、下着をスラックスごとずり下ろす。
先走りを垂らして喜んでいるそれを見た時、思わず目を背けた。
こんなはしたない姿を晒されて、仕置以外の何がある。
羞恥の端がほのかに怒りに変わるのを感じながら、ルパンを睨んだ。
「あらら、何だその目はヨ」
それを目ざとく見つけられて、髭の覆った顎を掴まれる。
「恥ずかしいからって怒ってんのか? 随分と偉いんだな、おまえは」
図星を突かれてしまえば、もう何も言い返せない。
「これは序の口。こんなので怒ってたら、身が持たねェぜ」
ルパンの指は俺の雄から離れ、次に俺の脚を開いた。
「ひッ、な、にを…」
ぴちゃりと戸渡の下の窄みに何かを塗りつけられる。
ぬるついたそれを満遍なく塗りつけ、指が突き立てられた。
「ッ、い、ぎ…!」
ルパンの中指が、身体の中に刺されていくのがわかる。
普段拓かれるような場所じゃないそこは、侵入を拒否するように固く閉じているのに、ルパンの指はずぶずぶと入ってきた。
「ハッ、かってぇなァ」
ぐりゅ、と指を回されて痛みで背中を丸める。
ルパンに弄られて猛っていた雄も、ふにゃりと首をもたげてしまった。
「次元。息を吐け、深くな」
腹を押され、呼吸まで強要される。
俺はされるがまま、息を深く吐き、吐ききったところで浅く息を吸い込む。
それを何度か繰り返すと、固かったそこが少しだけ緩んだ。
その後直ぐに指の出し入れが始まり、その度に俺の息が浅くなる。
それに気づいたルパンが腹を押し、息を吐かせた。
「ようやく二本目が入りそうだぜ」
一度引き抜き、潤滑液らしい滑りをまた穴にかけられた。
薬指が中指に沿うように入ってきた時には、一本目と同じように呼吸を繰り返した。
苦しく、辛く、痛い。
今まで受けた仕置など比べ物にならない苦痛だった。
これがルパンの心中を尋ねた罰なら、俺は懲りて二度としようとは思わない、思えない。
仕置きとしては、完璧なまでに俺の心を砕くものだった。
「る、ルパン…」
「あ?」
「もう、やめて、くれ…もう、聞かねェから、絶対に…!」
ぼろぼろと苦しみに涙が溢れてくる。
もう十分だ、と泣いて伝えると、ルパンは指を引き抜いた。
「次元よォ。俺がさっき言ったコト、もう忘れちまったのかい」
何を、と尋ねる。俺の頭の中は、もうこの苦しみから逃れることしか残っていない。
「俺様は、お前の疑問に答えてやろうとしてんだぜ。それを途中でギブアップなんざ、虫が良過ぎるのと違うか?」
ルパンはそう告げ、また指をナカに押し込んだ。
「うァッ、あ"ぁッ…!」
ずぶずぷと出し入れを激しくされ、身体が跳ねる。
そうして三本目も捻じ込まれて、壊れるかと思うほど拓された。
「んァッ…、はぁッ…は…」
「クソ…手間がかかんな」
指を引き抜かれると、じんじんとそこが痛んだ。
ルパンがカチャリと自分のバックルを外す音が聞こえ、ぴくりと身体が反応する。
下腹部の方を見ると、下着から見慣れたソレを取り出す手が見えた。
女を犯すための、黒く太い雄ががちがちに勃起しているのを見て、息を飲む。
「ルパ、ン…」
「これでわかっただろ、次元。お前を許す理由が」
その切っ先が穴に辺り、俺はどうしたらいいかわからなくなる。
違う、それも悪い冗談なんだろう。
そう尋ねたいのに、圧倒されて言葉が出なかった。
「挿れるゼ」
興奮した声が言葉尻に含まれ、ずぶりと音を立てて雄が俺のナカに埋め込まれた。
「あグッ、あァッ…!」
少しずつ雄が俺の腹のナカを拡げて入ってくる姦触に、背中が勝手にしなる。
どこまでも奥へ挿入される雄に、俺は息も忘れて仰け反った。
「はぁッ、次元、キツ過ぎんだよ…」
ルパンはそう言いながら俺の腰を掴んで押し下げる。
ようやく根元まで行き着くと、ルパンもぜぇぜぇと息を切らしていた。
「い、痛ェよ、ルパ…!」
咥え込んだ縁も、奥に突き当たっている亀頭が腹を押し上げるのも全て、痛みだけだった。
お前は俺に痛みを与えること、嗜虐心を満たすことだけが望みなのか。
そう脳裏に考えが浮かび、納得してしまう自分がいた。
「痛くしたくてしてるんじゃ、ねェっての」
額に脂汗を浮かし、ルパンが答える。
嗜虐心を満たす以外の理由は、俺には分からなかった。
ルパンは俺の手首を拘束していたネクタイを解き、足のベルトも取った。
だが腹のナカの痛みは無くならず、俺はガキみたいにしゃっくりを上げて泣き始めた。
「慣れりゃあ少しはヨくなるから、次元」
「ン、ンン」
慰めるようにルパンは俺に口付けた。
熱い粘膜が冷めた俺の中に広がり、癒されるように呼吸が楽になる。
くちゅくちゅとルパンの舌が俺の咥内をまさぐり熱のテールランプを残し、俺もその温もりを求めて舌を出す。
まるで恋人同士がするような、優しく甘い口付けだった。
「んゥ…!」
ルパンは口付けたまま俺の脚を抱え、腰を動かし始めた。
緩い動きは痛みを増やす一方だったが、口付けに夢中になっていた俺は抵抗を忘れていた。
ふと、脚を掴んでいるルパンの手が酷く熱いことに気がついた。
呼吸も熱い、時折触れる腰の肉も熱い。
どうしてこんなに熱いのかわからなかったが、俺の緊張もその熱さに溶けていく。
「あっ、あ、ふ…ッ」
ぐちゃぐちゃとナカの滑りが増し、動きづらそうだった腰が滑らかに動き始める。
身体が少し慣れたのだと気づき、俺はそこでようやく観念した。
息を意識して吐き、ルパンを受け入れようと必死になった。
「次元…辛いだろ」
ルパンの手が俺の髪を撫でる。
気遣われているとわかると、それを無駄にしたくなくて首を振った。
「嘘が下手だな、おまえは」
ルパンは苦笑し、律動を俺の呼吸に合わせた。
「ん、あ、ン、ルパン…」
さっきのキスがしたいとねだるように口を開くと、ルパンは唇を被せた。
深くとろけるようなキスに、痛みが遠くへ飛んでいくような気がした。
「俺がおまえを許しちまう理由、おまえを側に置いてる理由、聞かせてやろうか」
頬に手を当て、自分の目を見ろと強く射抜いた。
俺はそれに釘付けになり、頷いた。
「おまえが、俺のものだからだよ。身体も、何もかもな。俺様は自分のもんは、何があっても捨てねェんだ」
芯のある目は、本当のことを言っているようだった。
そうか、それだけのことかと俺は思い、わかったと伝えるように、こくりと頷いた。
「はぁ…、ほんと、おまえといると、調子狂っちまうわ。鈍過ぎんだろ、気づけよ」
諦めたように言われる。
まるでその言葉の奥に、まだ言いたい事が残っているかのような口ぶりだ。
「何に、だよ…答え、教えて、くれたじゃねぇか」
「うるせェよ。ほら、続きすんぞ」
尋ねたが、ルパンはもう答えてはくれなかった。
「ア、ん、ぐッ…あ、あ…!」
俺を抱き締め、少し激しめに腰を穿ち始める。
だんだんとルパンから与えられるその刺激に身体が慣れ、揺さぶられる度熱い吐息を吐き出す。
次にする時には、もう少しうまく受け入れてやれるかもしれない。
犯されるのが好きだとかそういう感情がなくても、俺はルパンに抱かれることができる。
笑えるほど盲目に、俺はルパンに惚れている。
そう思う頃には体力も限界で、ナカに出されたと同時に意識を飛ばしていた。
***
目が醒めると、俺は寝室に寝かされていた。
尻と腰と身体のあちこちが痛み、起き上がれない。
ルパンを呼ぼうとしたが、声が掠れて出なかった。
ルパンが来るまで待つしかないと、カーテンから覗く陽の光を眺める。
少し身じろぐと、肩と胸と二の腕がビリビリと痛んでいるのに気がついた。
包帯が巻かれていたが、その円形の痛みが昨夜のものだと思い出すまでに、時間はかからなかった。
俺が尋ねたこと一つで、こんな目に遭わされる。
しかしその理由が、ルパンが俺のものだかららしい。
それ自体は、全くその通りとしか言いようがない。
『鈍過ぎんだろ、気づけよ』
あの言葉の終わりが、不意にフラッシュバックした。
あの時は痛みと熱で頭がろくに働いていなかったから、考えることもできなかった。
何故ルパンはあんなことを言ったのだろうか。
考えるうちに、もう一つ前の記憶が蘇る。
『これでわかっただろ、次元。お前を許す理由が』
自分の欲を見せつけて、そう言っていた。
俺を許す理由が、性欲にある。
そういう意味だろうか。
性欲にあること、それは恋とか、愛とかいうものだろうか。
「…まさかな」
俺が、ルパンの所有物が離れようとしたから、きっとそうさせないために演技をしたに違いない。
俺はそう片付けて、ルパンが部屋に来るまで目を瞑った。
ends