10/7スパーク本① ガチレ

 

 

 

 

 

 

 

Fall into the crimson

 

-Lupin×Jigen R-18-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五塚

 

 

※始めから終わりまで、性的暴力表現を含んでいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、俺はあいつの居るアジトに帰らなかった。あちこち引き千切れ、所々が乾いて固まった服のまま、不潔な安いモーテルに身を寄せた。かつてあいつから貰った高級スーツの残骸をゴミ箱に捨て、中にあったバスローブを羽織ってシャワーに入る。

「つッ!」

湯が皮膚を伝っていく毎秒、痛みが身体を突き刺していくようだった。噛まれた跡、打撲でできた痣、爪で抉られた傷。塗れるようについたそれの一つひとつに酷く沁みる。壁に頭をつけ、呼吸を繰り返して痛みを逃す。そんな事を繰り返しながら身体を何度か洗い、髪も頭皮が痛くなるほど洗った。初めての事ではないとは言え、慣れてしまえるはずもない陵辱の跡がただひたすらに痛かった。

だが、そんな痛みよりもどうやって帰るのか。それとも帰らないのか。それを考える方が苦しかった。幸い、あいつから渡されていた偽のクレジットカードは折られていなかった。最初に上着を剥がされて捨てられたのは幸運だったのだろう。

俺は傷を癒すため、忘れ物の古くちぐはぐな服を来て街に出た。食料とディスカウントのスーツを買い、モーテルの部屋へ戻って来た頃には、ベッドの上で指先一つ動かさなかった。

そして、壁に俺の煙草の匂いが染み付いた頃。陵辱された夜から三日目の深夜に、誰かがドアをノックした。

「デリバリーなら他所だぜ」

俺がベッドの上に座ったまま小声で返すと、勝手にドアノブが回った。まさかクレジットカードの不正がバレたのかと銃に手を回すと、そこには赤いジャケットを羽織った男が立っていた。

「こんなところにいたのけ。探したぜ」

まるで俺が物置にでもいたかのような声に安堵する。

なんで来た」

然しその心とは裏腹に、理性が身構える。

「なんでって、突然いなくなったからだよ。一人になりたい時でも書き置きぐらい残せよな」

言いながら男がドアを閉める。革靴の底がフェルトの絨毯に重い音を響かせながら近づいて来た時、銃を握る指先に力を込める。

「おいおい、俺は本物だぜ」

わかってる」

偽物じゃない事くらいはわかっていた。わかってはいたが、俺の本能が離さなかった。男がポケットに手を入れ、青い箱から煙草を取り出して火をつける。そして一吸いしてから、口を開いた。

「今は手負いの獣ってか?」

ああ、やっぱり知っていたか。

こいつが俺の居場所を探り当てたという事は、俺の居場所を知るような、あるいは俺が身を隠すような事を知っている男達に会いに行ったという事だ。

嗤うんなら嗤え」

「嗤えるかよ」

深夜のせいもあって、外からは通り過ぎて行く車の音も聞こえてこない。昨日まで隣で励んでいた年増のカップルはもう出て行ってしまったのか。

男は短くなった煙草をテーブルの灰皿に押し付けた。そしておもむろに古びたテレビのリモコンを握って電源を入れる。そして何度かチャンネルを変え、火事の現場を映す番組で止めた。

『つい先程東地区で起きた放火事件ですが、消失した建物はマフィア組織のアジトと見られ 

女のニュースキャスターが読み上げた内容に目を見開き、男を見上げた。

お前がやったのか?」

男は俺を見なかった。そのかわりにテレビを消して、リモコンを床に捨てた。

「写真さあ、探すの面倒臭くってよ」

また煙草に火をつけ、淡々と吸い続ける。いつもは饒舌過ぎてうるさいほどの男が、こんなにも静かな事は珍しく、嫌な気がする。

余計な事しやがって」

あの組織は決して小規模とは言えないものだったアジトが潰れようと、生き残った奴らはゼロではないだろう。組織を失った復讐にやってくる事は確実だった。俺の言葉に、おもむろに男が煙草を吸う事を止めた。そして俺をジッと見つめた後、吸い殻を床に落として踏み消した。

「そーお…そんなに俺様のやった事が気に食わないんだ?」

にこりと人のいい笑顔で俺を見る。ただそれだけの事なのに、背筋にゾッと悪寒が走った。夜の薄暗い照明のせいで不気味に見えた、そう思い込む事にして顔をそらす。

「当たり前だろ、無駄な人殺ししやがって

人殺しなんざ滅多にしない男が、俺のせいで幾十人もの命を奪って来たのだと思うと心臓が鉛のように重く感じた。口にしてからズシリとのしかかる罪悪感から逃げるために、サイドチェストの煙草を取ろうと手を伸ばす。

「んッ⁉」

だがそれは奴の左手に阻まれ、右手が俺の口を掴んで後ろに押し倒した。必然的にベッドの上に倒れ、何事かと上を見る。敵が近くにいるのかと耳の感覚を研ぎ澄ませるが、聞こえて来るのは奴の微かな吐息だけだった。数秒の沈黙の後、奴がニヤリと笑って左手を上げる。その手には、俺の銃があった。

「油断するなよ。だから拉致られんだぜ」

弾の込められた銃を粗雑に部屋の隅へ投げ捨て、奴は口から手を離した。ただの悪ふざけかと起き上がろうとした肩を、また奴の手がベッドに抑えつけて覆い被さってくる。その上、俺の首元の匂いを嗅ぐように顔を首筋に埋めてきた。

「何すんだ!気色悪ぃ、離せ!」

急所に生暖かい呼吸がかかって全身に鳥肌が立つ。手足を暴れされたがまるで歯が立たない。俺と同じくらいの体格だというのに。暴れる俺の右の足首をギリギリと掴み上げ、脚を折りたたむ。

「なあ次元、俺様が一番頭にくる事ってなーんだ?」

「自分をコケにされる事だろ。それとこれと何の関係があるんだよ」

俺が口答えした事に対して怒ってるのはわかる。とはいえ、さっきのたった一言でここまでキレるほど、気の短い男じゃないはずだった。

「俺様は今そういう気分って事だよ」

曖昧な返答を返し、片手で俺のネクタイを解く。それを使って、俺の右脚を縛り上げた。

「ハッ、拷問でもすんのか?」

八つ当たりによ、とどこからか出された縄で左脚を縛られながら答える。あいつは一瞬きょとんとした顔をして、不思議そうに俺を見つめた。

「お前って鈍いよなァ」

細く長い指がシャツのボタンを上から引っかけるようにカツカツと滑っていき、最後にカツリとアルミのバックルに爪をかける。

「普通こうなったら自分の貞操心配するもんだぜ」

「あ?」

何を言っていやがると答える前に、身体をひっくり返されてベッドから落とされた。顔面から落ちたというのに呻いている暇はなく、うつ伏せのまま手を後ろに回される。ガチャリという音とともに、金属の冷たさを感じた。

「ッ、ちょ、ちょっと待て! 冗談もほどほどにしろ!」

「冗談? お前は冗談に思えるんだ、これが」

する、とスラックスの縫い目をなぞられて腰が跳ねる。落ち着け、奴は嫌がらせでしているだけだと、混乱し始めた自分を引き止める。顔を後ろに回し、視界の半分にあいつを捉える。

「三度の飯より女好きのお前が、男相手にこんな事するかよ」

欲情も何もしていない、平然とした顔が見えた。その表情に怒りがふつふつと湧いて来る。わざと俺を脅かそうとこんな事をして、無理やり俺に謝らせたいだけのこいつに。

「どうせ、俺を黙らせようって魂胆だろ!お前はいつもそうだ、俺の言う事なんかこれぽっちも聞かないでいやがる」

「だってさあ、お前が反抗ばっかすんだもん。口答えも多いんだよ」

うるさいと言わんばかりに耳に指を差し込んで見せる姿に、俺の苛立ちが煮え立つ。

「お前が無鉄砲過ぎるからだ!今回の事だって、写真だけ焼きゃいいのに、あんなでけえ組織のアジト潰しやがって。これから残党につけ狙われるハメになる」

殺しをすれば面倒だという事は、俺もこいつも充分承知のはずだ。そもそも、俺のせいでお前が命を狙われる羽目になるなど、一番望まない事だった。

「お前がまた拉致られてレイプされて帰ってくるよりマシだろ?」

奴はそう言ったが、そっちの方がいっそマシだった。

「お前がそんな事気にする必要は、ない」

後ろに向けていた顔を戻し、額を汚れた絨毯につける。

俺の事はどうだっていい。身体も精神も、頑丈だという自負がある。

「お前は俺の事に口出しするくせに? めんどくせえなぁ」

「うるせえ。人の話も聞かないで、はた迷惑な事ばっかり掻き込んでくるお前に言われたくねえ」

吐き捨てるように、胸糞悪いんだよと悪態を吐く。

「えらく噛み付くじゃない。何はどうあれよ、お前は俺様に感謝すべきだぜ。あんなもん流されたら、裏社会と言えど生きてちゃいられねえだろ、お前が」 

「だから、誰がお前にそんな事頼んだんだって言ってんだよ!恩着せがましくしやがって!」

固定された手足を暴れさせ、芋虫のように仰向けに転がった。膝を立てて俺を見下ろしていた男の、蔑んだ目線にどこまでも腹が立つ。その怒りは、尾に重く冷たい何かを引きずっていた。

「俺はな、ルパン。お前みたいな横暴で意地の悪いエゴイストなんか……大嫌いなんだよ!」

相棒を組んだのが間違いだったと叫ぶ。この男にしかない魅力は山ほどある。だがそれに反比例するように、我慢ならないところが心根を抉った。あいつはほんの少しだけ、また嗤った。

「あらそ、ならもっと嫌われる事しちゃおっと」

「や、やめろ、触んな!」

黒く薄っぺらいジャケットの前が開かれ、ボタンに手をかけられる。そんなのは望まない行為だと、死にものぐるいで身体を暴れさせた。

「暴れんなって、また怪我するぜ」

あいつは嗤いながら片手で俺の首を抑え、閉じた内腿を膝でこじ開けた。

「抵抗するから手酷くされんだぜ。それとも何、されたかった?」

首を押さえつけていた手が口を塞ぎ、剥き出しになった腹を指がなぞる。

「んん!ンーッ!」

「学習しねえな。大人しくしてろって言ってんだろ」

頭を持ち上げようとして、ゴツリと床に押し戻された。品定めでもするかのように触れてくる指先を感じるのが嫌で、薄笑いを浮かべている顔を見るのも嫌で、俺は強く目蓋を伏せた。

「んは、くっきり残ってんなあ。そりゃそうか、輪姦されたのつい三日前だもんな」

爪痕を指の腹で擦られると、鈍い痛みを感じて鳥肌が立つ。

「写真まで撮られてよ、本当に勘弁してくれよな。俺様の相棒が男好きだなんて噂流されたらたまったもんじゃないぜ」

ぎり、と少し伸びた爪がかさぶたに食い込み身体が飛び跳ねた。その反動で口から手が離れたが、今度はその手で別の傷を抉り返された。

「痛ッ!や、めろいてぇ!」

「レイプなんだから痛くするに決まってんだろ」

ベルトの前を解かれ始め、俺は今までと違う焦りを感じた。今すぐに逃げ出さなければ、今後何をされるかわからない。顔も知らない男達相手なら、身体に何をされようが心にまで侵入される事はない。だが、長く付き合ったこいつに身体を開かれたら、どうなるかわからなかった。俺はどう思われるようになるのか、俺はどう思うようになるのか。これからの事は、どうなっていくのか。

「ル、ルパン落ち着けよッ、そんなに怒ってんなら殴るなり何なりすりゃいいだろ」

抵抗をやめ、宥めるように顔を見て語り掛ける。それでも指先は止まらず、腹や胸の傷の一つひとつをなぞり不規則に爪を立てた。

「暴力ってのは内側からの方が痛いし効くんだよ。そうだろ?」

胸の間の筋を舌でなぞられ、心臓の上で止まる。

「次元、俺様は怒ってんだよ。俺のやった事に文句つけやがって。そんなにあの写真残しといて欲しかったんならな、今ここで撮り直してやるよ」

あいつが懐に手を入れ、デジタルカメラの端だけを俺に見せて直ぐにしまった。あの時は、男に囲まれて面白半分に撮られた時は、悪趣味だとしか思わなかった。今は、何かを人質に取られているかのような焦燥感と絶望に近いものを感じた。これが終わったら、こいつは俺をどうする気なのか。

「ば、バカはやめろ!離ん、ンーッ!」

言葉を無視され、口にあいつのハンカチを詰められた。

香水の匂いが鼻に抜け、押し出そうと舌を突き返す。それをあいつは、いつもは脱出用に使う細い縄で縛った。

「安いスーツだな。俺様が買ってやったやつは捨てちまったのか?」

スラックスを尻の下まで擦り下げられる。脚を縛っているせいでうまく脱ぎきれなかったのを見て、あいつはベルトを抜きナイフで縫い目を切り裂いた。内腿に手を添えられて股を開かされ、汚されたそこを見られるのに耐えかねて目をきつく閉じた。

「あーあー、よっぽど酷く虐められたんだなあ。こんなところにキスマークつけられてやんの」

くすくすと嗤いながら背を曲げて頭をそこに近づけ、戸渡の筋の脇にぬるついた粘膜を当ててくる。

「グ、ンン、ンーッ」

嫌だという意思表示を呻きで伝えたが、あいつは無視してきつく皮膚を吸い上げた。

「まあ、優しくしてやるよ。多分な」

一切を視界に映したくなかった。俺はぬるついた冷たい液が穴に塗りたくられる感触を闇の中で感じ、身体が小さく震えた。

「ゥう、ン、ンンッ!」

指先が固く閉じた窄みをこじ開けて侵入して、小刻みに指を曲げる。

解そうとしている感触を与えられるほど、身体は強張る一方だった。

「ふは、すげぇギチギチでも切れてねえって事は随分可愛がってもらってから挿れてもらったんだろ?」

淵の肉をナカに引きずって、指が根元まで押し込まれる。そして開いていないのにもかかわらず、二本目が強引に穴を押し広げた。

「ッ、ン、ふぅうッ

男達の方が、正直まだ優しかった。長く楽しんでやろうと、開ききるまで挿入だってしなかった。こいつはきっと、楽しもうだななんてこれっぽっちも思っていない。ただ俺を虐待したいがために、怪我をする一歩手前を攻めて遊んでいるだけだった。

「解してくれって頼んだのか? 随分と淫乱なんだなぁ、次元チャンは」

「う、んゥ!」

ずるりと指を引き抜かれた事で乱雑にこじ開けられたそこが収縮して、溢れた潤滑液が背中の方へ伝っていくのを感じた。

「前も弄って欲しいのか、欲張りちゃんねえ」

誰もそんな反応を見せていないのに、ぬるついた指が俺の萎えた雄を握る。その手つきは、意外にも優しかった。

「んっ、う、ンっ

じっくりと揉みしだかれて、素直に勃ち上がってしまう。力加減が絶妙にヨくて、直ぐに先走りが滲み始めた。芯が硬く膨らんでいくのを、掌の圧で感じる。あまりの気持ちよさに、俺は束の間犯されている事を忘れた。目を開くと、あいつの顔は目の前にあった。意識すれば、吐息が俺にかかっているとわかるほど、近かった。

「気持ちイイだろ、ん?」

「ぅ、ふ、んん

その時の笑みは意地の悪いものではなくて、柔和で、まるで恋人同士のような眼差しだった。その瞳にくぎ付けになって、射精感も高まってしまう。

「可愛い顔しちゃって。でもダメだぜ」

「んぐッ⁉」

ぎり、と鈴口に爪を立てられて身体が跳ねる。

「ぐッ、んッ、〜〜ッ‼︎

その痛みも治らないうちに、布をまとったふくらはぎにかじりつかれた。歯が肉に食い込む鋭い痛みに、押し潰れた悲鳴を上げる。

その痛みを三度も同じ場所に繰り返されて、すっかり萎えた雄は腹の上に捨てられた。

「んふ、イかせて貰えると思ったか。お前自分がレイプされてるって事忘れてねえ?」

あいつはほくそ笑んで、再び指をナカに押し込んだ。二本の指がバラバラに動き、それでできた隙間から潤滑液を注ぎ混まれて手荒に濡らされる。

「ンンッ、ウ、うぅッ」

鍵のない箱をドライバーでこじ開けようとするように、紛れもない暴力で穴を開かされる。やはり輪姦された時より痛く、自分がただの玩具に過ぎない事を嫌というほど感じた。

「じゃあ、次はこっちね」

髪を掴まれ、口を縛っていたロープとだ液まみれのハンカチを引き抜かれる。そしてあいつの萎えたそれが目の前に突き出されて、俺は顔を背けて抵抗した。すると顎を強く掴まれて、唇に押し付けられた。嫌だと頭を振っても、あいつは許してはくれなかった。根負けして咥えると、あいつは嗤った。

「最初からそうすりゃいいのに。諦めが悪いよな、ほんと」

「んグッ、ウ、え…ッ」

好き勝手に頭を動かされ、えづいても労わられる事はなかった。

「は、結構勃つもんだな」

咥内に塩気を感じる頃、あいつはそう独り言ちた。このまま出して、満足してくれないものかと俺はあえて舌を動かした。

「ん? どうしたの、急にやる気になっちゃって」

「ンッ、はっ、んん、ン」

「ふは、ダメだって、次元、悪い子だな」

口から雄を引き抜かれ、後ろに前髪を流すように額を撫でられる。口の端からあいつが出した先走りと俺の唾液があふれるのを感じた時、ぬるついた指がそれを拭う。

顔にかけられたかった? 残念でした、お前に選ぶ権利はないんだよなァ」

にこりと笑うが、薄く開いた目は冷えていた。

「る、ルパン、やめろ」

赤いジャケットの腕が伸びてきて、俺は身じろぐ。だが蜘蛛の巣に捕まった虫のように簡単に捕まえられて、腰を持ち上げられた。あいつは何も口を利かないまま自分の雄に潤滑油を擦り付けて、こじあけられた穴に当てがう。

「いやだ、いやだルパ、うぁあッ!」

ずぷりと音が立つほど強く切っ先を埋め込まれ、必死に押し戻そうと腹に力を混める。あいつはそれをねじ伏せるように俺の腰骨を掴み、肉を鷲掴むように引寄せて強引に俺に受け入れさせた。

「ひ、い!」

亀頭が肉壁を擦りながらナカを押し開いて、太い竿の大きさに拡げていく。

それで感じえたのは快楽ではなく、身体を壊される苦痛だった。

「狭えな、動けねえ」

「あ、あグ、はぁっ、ア!」

まだ根元に行きつかないのかと俺が戸惑っているのを見ても、あいつは機械の具合でも見るかのような冷めた態度だった。腰を押し込まれ、突き当りに固い肉の塊が当たった。

「力抜けよ。キツ過ぎる」

「む、無理、だ……でき、ね

「できねえ事あるかよ、三日前にはしてたんだからよ」

「んぐ、ちが、は、うッ!」

違うと頭を振る。あの時は、男達は楽しむ事だけが目的で、俺はただ人形のふりをしていればよかった。今は違う。俺は人形じゃなくて、それ以下の物扱いをされている。弄ばれているんじゃない、壊すために、乱暴を受けている。

「やめ、ろ

壊されるのを受け入れるなど、俺にはできなかった。ましてやお前になんて、嫌だった。相棒という言葉霞むように浮かび、それが思い上がりだった事に気づく。

「どうしてもできねえっていうんなら、催淫剤ぶち込むぜ」

するりと首筋を撫でられる。そして侮辱するように立てた中指を、頸動脈に当てがわれる。

「全部録画されて、俺様が欲しいって強請る姿残されたいのか?」

感情のないグレーの瞳が俺を見つめ、口の端を曲げる。お前はそれを見てどうする気なのか。嘲笑うのか、それとも蔑んで捨てる気なのか。それを問う事はできず、俺は目を閉じて顔を背けた。

「嫌? なら言われた通り、脚の力抜いて奥まで犯されろよ、ほら」

言葉と共に折りたたんだ膝の裏に指が差し込まれ、腰が天井を向くように持ち上げられる。

俺は終わる事だけを祈り、穴が締まり過ぎないように深く息を吐いた。

「イイ子だなあ、次元チャン。ご褒美あげなきゃね」

「ひッ、ぁ、あぁッ!」

子どもをあやすような優しい声で、あいつは無遠慮に俺を犯し始めた。男達に凌辱された時と同じはずなのに、受ける感触は別物だった。心臓が鼓動を止めるように縮こまり、身体のナカは侵入を拒否して体温を下げていく。

「ぅうッ、あ、いや、だ、んんンッあ、ル、パ!」

腰を叩きつけられる度に、俺の全身が揺れる。痛い場所もイイ場所も、それは挿入する度に角度を変えて暴いた。

「あー、悪くねえつうかお前、ナカが浅いなぁ。奥まで簡単にほら、届いちまう」

「あぅうッ」

こっちの方が深く入れそうだと呟いて、俺の身体をひっくり返した。尻の肉を掻き分けられて、うつ伏せのまま太さを増した雄を受け入れさせられる。

「ひ、あぅッいやだ、アぐッ、いや、だッぁあッ」

「ふふ、鳴かせがいのあるイイ声だよなあ。上ずっちゃって、かわいいよ」

雄がナカの終わりに当たる度、痛みで声を上げた。凌辱した奴らだって、こんなに簡単に届くものは持っている男はいなかった。それ故、奥を執拗に開かされる事もなかった。乾いた破裂音が何度も部屋に響き、腹のナカからは内臓を叩かれている鈍い音がした。

「膣、突いてるみてぇだ」

「うッ、ふ、ふざ、けんな!」

「ふざけてなんかいねえさ、本当にオンナみたいぜ」

覆いかぶさられ、耳元に声を吹き込まれる。その後に長めの髪を掻き分けられ、うなじに吸いつかれた。

「俺のオンナにしてやろうか? 次元大介さんよ」

「ッ、だ、れが!」

その言葉に恥辱という感情が血を吹き、顔が紅潮した。そしてその間も、律動は止む事がなかった。言葉通り、使い捨てにされる女と同じ事をされていた。

「はッ、あ、あ、アぁッ、イ痛、い!」

「ふふ、処女みてえ。うまく濡れないところもな」

背中を押しつぶされながら律動を受け入れる度、男の亀頭のひだに潤滑液が掻き出されて痛みが増してくる。そして痛みは下半身だけでなく、俺の心も着実に蝕んでいた。女のようだと言われ、女の役割を強引に続けさせられる。今まで信頼してきた男に、それを強要されている。

俺は、結局お前の使い捨てで終わるのか。こんな事になるなら、見知らぬ男たちに身体を玩具にされて殺されていた方がマシだったと、何度も思った。

「あッ、ア、い、いた、い、ひッ、い、ァ……!」

潤滑液が乾いてうまく滑らなくなり、見かねられたのか雄を引き抜かれた。嬲られた続けた穴が閉じ切らないまま、収縮を見せてしまう。

「痛いって言う割には随分柔らかくなってるケド? やっぱり好きなんだ、こうやって無理やりヤられんの」

「違うッ、あ、んんッ!」

今度は横向きにされて、粘液を足された雄を押し当てられる。ヒクついた穴はそれを喜ぶように飲み込んで、俺は歯を食い縛って声を喉で殺した。

「はっ、は、次元、もっと締めろ」

あいつは言いながら、右脚の拘束を焦れるように解いた。足首を掴み、邪魔だと言いたげに持ち上げて肩にかける。

「うっ、ぅうッ」

 激しかった律動が、ひときわ重い衝撃に変わる。骨同士がぶつかるほど打ち付けられ、奥を突かれ続け、頭の中は白濁にまみれるように霞んでいく。 遠のく意識の中、腰が脳幹に命令されたように無意識に逃げようとする。それもすぐに掌で捕まえられ、男の欲を打ち込まれ続けてしまう。

「んーッ、んゥ、ンンッ」

「はぁッ、イきそ……

 少し上擦った声が髪越しに耳に伝わった途端、俺は目を覚ました。それだけは嫌だと、女にさせられたくないという感情に叩き起こされた。

「やめろ、うぁ、あッ、出すなッ!」

 できる限りの身じろぎで抗ったが、髪を掴まれて持ち上げられた。

「バカなのか? 今さら抵抗したって無駄だってわかるだろ」

 怒気を含んだ声で言われれば、俺は怯えるしかなかった。

それでも、まったくもって無駄だとしても、どんなに微かだとしても、抵抗し続けた。

「嫌だ、ルパン、いや、だひ、イッ、あぅッ、出すなぁッ!」

 女にしないでくれ、俺を壊さないでくれ。いくら俺がそう訴えても、あいつは薄ら笑いを浮かべるだけだった。言葉が通じないのだと悟った時、強張っていた身体の力が一瞬抜けた。それを見計らったように、根元まではめ込まれて覆いかぶさった身体に身震いをされる。

「あぁッ!あッ、あっ!」

 肉壁に生温い精液が無遠慮にぶち撒けられて、狭いナカで水溜りを作られていくのが嫌でもわかった。

「あ、ぁぅ……

何度も押し付けられ、あいつが俺の穴の痙攣で残濁を絞っているのがわかった瞬間、俺の視界は水気に霞んだ。

「はッ、ヤベ……ぐっちゃぐちゃ」

 満足げに嗤いながら引き抜き、糸を引いた精液を内腿に掛けられる。

「うッ、ひう、ぐうぅッ

輪姦された時も、同じ事をされた。その時は心が虚空になり、拷問を耐えるのと同じでさほど引きずりはしなかった。ただ身体が傷ついただけで、涙なんか一滴も零しはしなかった。

「なに、泣いてんの? 大の男がみっともねえ」

 蔑むように言う男に、誰のせいでと歯を軋むほど食いしばる。横を振り向き、間近にあった顔に睨みつけた。

「お、おまえ、最悪だ人の事、玩具にしやがって!」

「はあー、玩具なんて生易しいもんに扱った覚えはねぇけど」

 呆れたといった風にため息を吐き、身体を起こす。

「やっぱりお前は鈍いよなぁ。こういうのはさァ」

肉便器にされるって言うんだよ。耳元で囁かれ、耳の外殻を唾液の塗れた舌でなぞられる。

「男の性欲の捌け口にされるって意味だぜ」

「う、るせ」

「何人も相手してきたくせに、俺が初めてみたいな態度はどうかと思うんだよなぁ」

「うるせ、ぇ!」

「でもま、なかなかヨかったぜ?」

「ッ、黙れ!」

好き勝手に言われ、俺は塞ぎたくても塞げない鼓膜を呪い、悪態しか返す事のできない喉を嫌った。だがもうこれで終わりだという安堵と絶望に救われ、芯のなくなった雄が引き抜かれるのを待った。

「さ、じゃあお待ちかねの記念撮影しようか? 結構ヨかったし、ビデオ撮ってもいいぜ」

また仰向けにされ、萎えたそれを引き抜かれる。そして勃起を促して扱いている手元を見た時、恐怖が俺の心に噛み付いた。

「ふッ、ふざけんな!やめろ!もう充分だろ、許せッ、ゆ、ンーッ!!」

煩いと口を手で塞がれ、今度は俺の雄にも触れてきた。しかし今度は絞るように掌で握り上げられても、怯えのせいで勃ちあがりはしなかった。それを見ると無言で戸渡の中心に指をあてがわれ、強く肉に食い込まされた。

「んんンッ!」

強制的に射精感を煽られ、竿をキツく指の輪で擦り上げられた挙句半勃ちの雄を挿入される。

本能が悦ぶ前への刺激に違和感がかき消され、雄からは粘液が溢れた。

「あーあー、ダラダラやらしいもん漏らしちゃって優しくしてねえのに、感じちゃった? マゾなんだね、次元チャン」

その先走りをあいつは揶揄うようにすくい上げ、悪戯に扱く。敏感になってしまった雄に引きずられて、ナカが姦淫を貪るように蠢く。そんな自分の身体が、情けなかった。

「前立腺、探して突いてやろうか、気持ちイイんだろ」

「ンッ、あぅッ、あン、ぐッ」

浅いそこを硬い雄で押し込まれると、戸惑いと快楽が同時に声をあげた。

「イイ顔。じゃあ、始めようか?」

 あいつが懐からビデオカメラを取り出し、微かな機械音をさせる。俺はレンズがこちらを向いているのを見るのが嫌で、床に額を擦りつけて口をつぐむしかなかった。

「ンッ、んぅッ、はッ、うぅ

「声、出せよ」

様々な味が混ざり合った指が強制的に唇をこじ開け、親指が歯の間を陣取る。首を振っても、やはりやめてくれはしなかった。逆鱗に触れる事が怖く、噛んで抵抗する事もできなかった。

「ふ、あ、アッルぅッ!」

漏れた喘ぎをさらに強く出させようと、快楽を与えるように加減した腰を叩きつけてくる。

「ん、ァッ、あっ、あっ、あぁッ」

奥に当たる度、歯の間を指の高さよりも高く、口が開いてしまう。突き上げられる度に声は高さを増していき、雄を激しく扱かれる度に吐息が熱を持ち始める。

「よく撮れてるぜ、喘ぐとイイ声出すのもしっかり撮れてる」

絶景などとほざきながら、あいつはカメラのレンズを覗いていた。

「ひっ、うぅッ、うも、やめて、くれ……るゥ、ぱ、ァ……!」

呼べていない名前を口にして、必死になって懇願するように首を振る。

「撮らないで、くれあぅうッん、ンッ、ンんッ」

 抵抗の言葉を口にすればするほど抽出は激しくなり、雄を咥え込んだ穴にカメラのレンズが向いているのを見てしまう。

「かーわいい、本当に嫌なんだ」

 じゃあカメラは終わり、とあいつが言ったのも束の間、シャッター音が聞こえた。

「はい、チーズ。笑って?」

幼子に語り掛けるような口調で、指で無理やり口角を上げられる。

「いや、だう、ゆ、るし、んッ、ン…!」

カメラのフラッシュが顔にかかる度に、俺の目からは涙がぼたぼたと溢れていた。涙が鼻につまり、ずるずると鼻声に近くなっていく。揺さぶられて出る喘ぎが、いつしか鳴咽に変わった。

「見る? イイ顔してるぜ」

「うっ、うぅ、う」

見たくないと頭を振る。だが俺は直ぐに顔か髪を掴まれて見せられると構えていた。しかし、乱暴な掌はいつまで待っても来なかった。

「お前があいつらに見せた顔と、違うな」

 不思議そうに奴が言う。そんなもの、違って当然だというのに。

「もしかして、本当に感じてんの?」

今更驚いたような顔で俺を覗き込み、試すように腰を回してナカをかき混ぜる。

「んゥ、あ、あぅ

 感じているのは快楽だけじゃなかったが、俺はそれを隠すように一度だけ頷いた。それだけでも、心臓が苦しくなり鳴咽が乱れる。心が傷ついていると、本当は気づいて欲しかった。

「そう、なら一回くらいはイかせてやるぜ。俺様ってば慈悲深いからよ」

「あぅッ、あ、あ、ンア、んゥッ!」

 乱暴だった力が急に優しくなって、まるで女を犯すように濡れた肉壁に労わりを孕んだ快姦が与えられる。痛みのノイズが消えれば、怖くなるほど気持ちがヨかった。硬い雄で身体を開かれる度に、腹のナカがとろけてしまったように素直に受け入れる。掻き出されるように雄が出ていく度、行くなと吸いついてしまう。

「気持ちイイよ、次元」

優しく髪を撫でられて、深く口付けられればもう出してしまいそうだった。飴でも舐めるかのように器用な舌先に味わわれているのを感じ、顔を背けた。こんな俺を感じようとするのはやめてくれ。その意思表示のつもりだったのに、掌は俺の顎を緩く掴んで上を向かせた。

「キスしてよ、次元ちゃん」

唇の端に口付けを落とし、暴力を削ぎ落とした力で唇を塞がれる。ついさっきまでモノ扱いをしたくせにと胸の中で悪態を吐く。それでも都合の良い優しさに引きずられるように、咥内の粘膜を擦り合わせ、混ざり合った唾液を飲み込む。あいつはそれを見て満足そうに笑い、頬にキスを落とす。

「お前、ナカじゃイけないんだ」

いくら奥に当てられようと、それは無理だった。絶頂に導いてくれるのは雄の性感帯だけで、ナカは射精できるほどの快楽を与えてはくれない。どんなに女扱いをされようと、そこだけは女の造りにはなりきれない。

「でも、素質ありそうだなァ。全然萎えてないぜ」

「ひ、さわ、るな!」

「ふふ、大丈夫、今度は痛くしねぇから」

あいつがそう言い、右足に引っかかっていたスラックスを靴ごと脱がす。それから真新しい歯型の痣を舐めた。ふくらはぎの裏側に満遍なく甘噛みをされ、恐怖と共に強い性感を与えられる。そこへの甘噛みを終えると、あいつは俺の胸に頭を埋めた。女のように反応する事のできない薄い肉の部分を舌先がなぞり、口で覆われて吸い上げられる。

「あっ、アっンッ、イ、あッ、あぁあッ

 喰われている、その事実が今更になって突きつけられたように感じた。

胸から口を離し、深い灰色の瞳が俺を見た。

普段はあまり見せない真摯な顔で、芯を持った視線に囚われる。

いつもは猿顔とバカにしていた俺だというのに、その顔に見惚れてしまった。根を寄せた眉が、睨むようで慈しむような瞳が、少し食いしばった歯が、何よりも男を見せた。

「あッ、はッ、も、う!」

 出る、と言い切る事もできず、背筋が勝手に仰け反った。

唾液に濡らされた胸が冷える感触さえ、快感になるほど感じていた。

「あぁ、あ……

失禁してしまったかと思うほど、腹に生暖かい粘液がびしゃりと落ちてくるのを感じながら、脳が溶けてしまいそうな快感に恍惚を与えられる。その恍惚は身体を跳ねさせ、じわじわと俺の意識を蝕んだ。

「うわイく時ナカが痙攣すんのな。穴まで締めちゃって、ヤラシ」

ナカに欲しがってるみたいだなと、あいつが満足げに呟く声が通り過ぎて行く。その時にはもう、俺の体力は限界だった。

「はぁっ、は、はぁ」

「すげぇな、ここも、その……

 何か続きを言われている事だけしかわからなくなり、ふつりと意識が闇に溶けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、次元、じげぇーん? オチちゃった?」

 ぐったりと茹でられたかのように、捕まえていた脚が脱力していく。顔を除くと、力なく目蓋を閉じていた。指で捲ると、瞳孔は丸く広がりどこも見はしなかった。

「さーすがにやり過ぎたかな。ここまでスイッチ入れられるとは俺様もビックリ」

 挿入していた雄を引き抜いてやると、音を立てて注ぎ込んだ精液が溢れ返った。俺の雄にもナカでついた白濁がまとわりついていて、陰毛もぐちゃぐちゃに濡れていた。そのままの体勢で顔の真横に置いておいたレコーダーを拾い上げ、一番新しい録画を再生する。姦しい喘ぎと肉欲を打ち付ける音が部屋に響き、画面には泣き崩れる次元が居た。

「ンフ、すっげえ表情

 骨の折れた掃除を無下にされて始めた行為だったが、思わぬものを見つけた。お前にこんな顔が出来たと事前に知っていたら、きっと今度の事件などなくても強姦したかもしれない。心の底から、粗暴で野生を剥き出しにさせるように肉欲を唆る眼だった。縋るようで、抵抗している。快楽に犯されているが、自分は女じゃないと苦しんでいる。

そして、俺の事を時折絶望に近い目で見る。それはチンピラに過ぎない男達に囲まれて女役をさせられている時の写真には、一つも見られなかったものだった。ビデオを止めて、いつのまにか手から滑り落ちていたカメラを拾い上げた。ボタンを何度も押し、無数の画像を流していくうちに、また昂ぶってきてしまった。

「次元

気絶してしまった脚を持ち上げ、まだ足りないというそれを押し当てる。まだナカには入れず、目を閉じて脳に焼きついた眼差しを思い起こした。

俺をそんな目でみるなよ、お前も俺も危なくなる。

脳の中の次元に返し、深くナカに雄を埋めた。

 

 

 

目覚めると、閉じられた安物のカーテンから漏れる太陽の光が、明るくヤニで黄ばんだ空を照らしていた。ベッドの柔らかさを背中に感じながら、あれは俺の悪夢だったのかと思う。

おはよ」

声がした事に驚き、横を見る。

そこには俺と同じように裸で横たわっている男がいた。

絶望が俺を襲い、心臓が凍った。

「な、んで居るんだよ

「何言ってんの。俺様はお前の相棒だろ?」

 何をいけしゃあしゃあと。

離れようと起き上がろうとしたが、身体はわずかにしか動かなかった。

「いいから出て行けッ!この変態色情狂…!」

 微かに後ずさりながらいうと、あいつは顎をさすった。

「ンー、それもいいけど。昨日はちっとやり過ぎちまったし、今日はお前のところに居るよ」

 まるで恋人か何かのように優しげに言い、昨夜は見せる事のなかった棘のない眼差しを俺に向けてくる。

「傷が直ったら、もう一回ヤろうぜ。今度は優しくしてやるからさ」

「こっの、野郎!一発撃ち込んでやる!」

銃はどこだと探すと、サイドチェストの上に置かれているのを見つける。必死で手を伸ばして掴み、男に寝ころんだまま銃口を向けた。あいつは目を丸く開き、驚いたような顔をする。

「何、そんなにビビるこたぁないじゃない」

「レイプされた相手にもう一回やろうなんざ平気な顔して言われてみろッ!恐怖以外に何があんだよ!」

あー、なるほどね」

 そりゃそうか、と勝手に独り言を発し、申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「まあ、ほらさ。昨日は俺もつい頭に来てたってだけだし。酷くしたのは謝るからさ」

 酷くしたのレベルかよと、怒りが沸く。そのせいで俺がどんな思いにもなったかも、あいつは気づいていないようだった。

「ね、次元、許して。俺が悪かったって」

 それでも素直に謝られると、それ以上怒る事が、何故かできなかった。こいつに謝られると、許してしまう。それが例えどんなことであっても。その理由に心当たりはあれど、まだ名前をつける気にはなれなかった。

写真」

「見たいの?」

「んな訳ねぇだろ、カメラ出せ!」

 差し出されたビデオを奪い、壁に投げつける。

力はさほど強くなかったが、液晶が割れる音はした。

「あーらら、もったいない」

「うるせえ。もう一台あったろ、アレも出せ」

「えー、これも?これはよくねえ?」

 枕の下からカメラを取り出し、男はこんなによく撮れているのにとボタンを押し始める。

よーくわかった。お前の脳天ぶち抜いてからソイツを粉々にする」

 撃鉄を引き鼻先に突きつけると、流石に手を上げてカメラを俺の前に落とした。

「わー、やめてやめて。お前に殺されんなら挿れたままにしたいしィ」

 ふざけた事をいう口を無視してカメラを壁に投げつける。壊れる音がすれば、胸の中の重みがほんの少し軽くなった。

……気、すんだ?」

 宥めるように声をかけ、俺の顔を覗き込む。

「でもよぉ次元チャン、まだ消しきれてないぜ」        

「どこのカメラだ、今すぐ出せ」

 まだあるのかと辺りを見渡すと、あいつは自らの手を持ち上げて見せた。

「んふふ、ここ」

とん、とこめかみを叩き微笑む。俺はその意味を知って、顔が熱を持ってしまった。あの頭の中など、俺には壊せない。羞恥と悔しさと不甲斐なさに呑まれそうになる。

「あと、ここな」

そう言って頭を撫でられた刹那、トドメを刺された。銃を取りこぼし、片手で目を覆い隠す。

「クソ……死んじまいてぇ」

「捨てるんなら、俺にちょうだいよ」

 言葉とともに裸の手が胸に向かって伸びてきたのを払いのけ、顔を背ける。

「お前にだけは絶対に嫌だ」

「じゃ、盗ませて」

 あいつはしつこくそれを追いかけて、毛深い腕で俺の身体を正面から抱き締める。それから頬を何度唇で啄まれても、俺は口を開かなかった。

「な、次元」

「愛してるなんてふざけた事言うなよ」

「あらま、通じちゃった?」

 どこまでもふざけたにやけ顔を俺に向け、奴は俺の首筋に吸い付いた。無感情を装うが、肌が粟立つのは止められなかった。

「セックスした後の言葉ほど、無意味なもんはねえ」

「ドライな事言うなぁ。ま、何はどうあれ、あんなに俺の事夢中にさせたのはお前さんだからよ。俺としては手ェ引く訳にはいかねえな」

柔らかい唇を愛しそうに俺の固く結んだ口に被せ、開かせようと舌先をあの手この手で突いてきた。

「俺様のモノになってよ」

欲望を包み隠さないくせに、その口調は穏やかだった。本当にこいつが欲しがっているなら、俺はその時点で逃げる術を見失う。今まで仕事をしてきて、お前に欲しいという感情を持たれたこの世の全てが手中に納まるのを俺は見てきた。だからといって、身体を物言わず差し出せる気持ちはなかった。

「横暴の化身かよ、お前は」

苦し紛れの悪態を吐く。

「我を通したいだけ」

「世界で一番意地が悪い」

「いじめ上手って言ってもらわなきゃ」

エゴイスト」

「俺様って男はそうなのさ。でも、自分以外を愛してやれない訳じゃないぜ」

お前なんか大嫌いだ」

 突き放す程心に深く入り込まれるような気がして、それを最後に歯を強く噛む。こんなにもお前の事が怖いと思うのに、俺はやはり離れたいという気持ちを知らない。

「嘘吐くのが下手だな。そういう眼してねぇぜ?」

「ッもう、一生喋るな」

頬に触れてきた手から逃れようと首を振ったが、掌は触手のようにまとわりついて離れなかった。

 「言葉でも犯されるのが怖い?」

 あの薄い唇が、俺の耳の側へ来る。息の触れる近さになって、あいつが言葉を注ぎ始めた。

「知ってるか? 恐怖と快楽ってのはさ、複雑に絡み合ってるんだぜ」

言いながら、ふくらはぎについた赤く腫れた歯型の跡を指先で撫ぞった。そこから、徐々に指が俺の中心へ向かって伝ってくる。膝の裏を通り過ぎて内腿を滑り、焦らすように際どいところを撫でてから、その奥へ。

「怯えな、その分だけ気持ちよくしてやるよ。そんで、俺だけのモノにしてあげる」

その瞳に映された時、戻れない闇に引きずり込まれる俺を見た。

 

 

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印刷:株式会社シメケン

発行者:五塚

発行日:2018年10月7日

Fall into the crimson

 

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